渡辺洋三氏

水曜日 晴れのち曇り。
 暖かし。
法社会学の渡辺洋三氏8日に死去とのこと伝えられる。84才。渡辺氏には岩波新書に何冊かの著書があり、それで渡辺洋三という名前には親しみがあった。だが氏の著書は新書であっても専門的で重厚なところがあり、どれも簡単には読み切れなかった。訃報に接して、手許から1959年刊の著書、「法と云うものの考え方」を取り出して拾い読みをしていたら、「企業経営者としての国家」という項があって次ぎのようなことが書かれていた。やや長いが記録しておく。「現代の国や公共団体の企業経営は、社会法の時代における福祉国家のサービス的機能に基づくものであって」「利潤を追求する私的企業ではとうてい提供することの出来ないサービスを、国や公共団体、公共企業体が、国民大衆の福祉のために提供するところに、社会法の観点から見た今日的意義がある。たとえば、国が郵便事業をおこなうのは、低料金で、迅速正確、公平に、全国津々浦々にまで郵便物を運ぶという国民生活上の至大な利益を私的企業の任せることは出来ないからである」。
 思えば、半世紀前には「国家の役割」という原理的なことを「新書」という場で論ずる風土があったのだ。今はどうか。新書のベストセラーは「国家の品格」である。自分は買わない。読まない。
 もうひとり、「茂吉の体臭」を書いた斉藤茂太氏死去。90才。茂太さんのことは別の日に。