金曜日  晴れ。
岩波文庫に「雨夜譚」という渋沢栄一の作品が入っている。「あまよがたり」と読む。
副題に渋沢栄一自伝とあるが、この「雨夜譚」は栄一の90年の全生涯のうち、明治6年大蔵省を退官する迄の34年を述べた半生記である。ところで朝日新聞の夕刊に「拝啓 渋沢栄一様」というコラムが3月2日まで12日間連載された。渋沢栄一は人も知るように幕末から昭和の始めまでを生き、日本に初めて株式会社を作った「日本資本主義」の父といわれる人で、作った会社は500を数えるという。「ルール」や「倫理」にそむかぬことを信条とし、政治経済を道徳と一致させねばならぬ と説いた。談合、粉飾決算、政治とカネの問題、凶悪犯罪の多発、など「倫理」も地に落ちた感のある今、渋沢哲学を紹介するのはなかなか良い企画だ。コラムは渋沢の説いた言葉を紹介しながら、それに関係のあった人、そして現存する人物や団体、会社などをレポートしたもの。全部通して読むと、企画はいいが間口を広げすぎて中途半端に終わった感じがある。「雨夜譚」のほうが、渋沢がなぜ当時の商工業の仕組みに「株式会社」制度を取り入れようようとしたのか、手始めに、明治6年に、今の「みずほ銀行」の発祥となった「第一国立銀行」を創設した経緯などが平易に述べられていて、渋沢の考え方がよく理解できる。「拝啓 渋沢栄一様」は「雨夜譚」を久しぶりに手に取るキッカケとなった。