木曜日 晴れ。

 空気は冷たいが、やや春の気配。そういえば、
 伊豆の河津では明日から桜祭りのはずだ。
 土手はピンクになっているだろうか。
 獅子文六の随筆「飲み、食い、書く」正続 読了。
 彼のように、何が食べたい、何が飲みたいと、いつでも言える
 人は羨ましい。
 巻頭に「一番食べたいもの」という文章があって、
 そこに並べられているのは次ぎの4ツである。

  1、ヒジキと油揚げの煮たの。
  2、ゼンマイの煮たの。
  3、キリボシの煮たの。
  4、ナッパの煮たの。

 こんなものなら、誰でも料理ができるから文句は
 あるまい と思うだろうが、とんでもない、というのが
 文六先生の言い分。こういう料理はみんな軽蔑するから
 誰も上手に煮る腕前にならないのだ、というのである。
 これらが「美味しい」と言えるイメージがよくわからないが、
 食べ物に、このよう積極的な主張が出来るのが羨ましい。
 食事が受身ではないのだ。獅子文六は演劇研究のため
 戦前のパリに滞在していたが、フランス料理は路地裏
 のレストランで食べても、「堂々として」美味しく
 特に、付け合せの野菜がいいとか、ワインは、白は
 ボルドー、赤はブルゴーニュというが、その逆がいい、
 とか、体験的、実感的に書かれていて面白い。
  小説「やっさもっさ」には、横浜中華街の「海員閣」が
 書かれているそうだ。手許のボロ文庫本を引っ張り出して
 みよう。獅子文六は今余り読む人はいないらしいが、彼の
 大らかなユーモアにあふれた世界はいいと思う。