ワルターのマーラー

月曜日  曇り時々雨。
やや寒い。半日ストーブ焚く。
ステージが近づくのに暗譜が出来ない。譜面を眺めてため息をつくのみ。プロとは言えオペラ歌手、特にワグナー歌いの暗譜力の秘けつを知りたいものだ。加齢と共に覚える能力が低下するというが、自分はそれ以上だ。認知症ならぬ不認知症を発症しているのかも知れぬ。譜面を持ってステージに上がるのが当たり前だった時代が懐かしい。

ウイーンフィルをワルターが振った、マーラーの交響曲第4番を聴く。まだマーラーがあまりポピュラーでなかった頃、マーラーの演奏はワルターに限ると教えてくれた人がいた。けれどその頃はマーラーなど、名前は知っていてもまだ音楽は聴いたこともなく、そのチャンスもなかった。今は誰でも振るので一体誰がマーラーのスペシャリストなのかよくわからない。(個人的には、バーンスタインアバドだと思っている。)自分が始めて聴いたマーラーの音楽がこの交響曲第4番で、もう25年以上前になるだろう。ショルテイー指揮のアムステルダムコンセルトヘボウの演奏するLPだった。このレコードに針を下ろしたとたん聴こえてくる、あの シャン、シャン、シャン、シャン、という4拍子の鈴の音に惹かれてしまい、それが、マーラーを聴いてみようか というきっかけになったのだ。この鈴の音があまりに通俗的だと言ってけなす専門家もいるが(柴田南雄氏など)自分は、この鈴の音の鳴る第4は、マーラーに親しむ入り口の音楽としては格好の曲だと思っている。
今日聴いたワルターの演奏は、1955年ウイーンの楽友協会ホールでのライブ録音のCDだが、ふくらみのある柔らかい音で、ポルタメントを充分に使い、情緒纏綿とウイーンフィルを歌わせたワルター節を充分に聴くことが出来る。フィナーレのソプラノソロはヒルデギューデン。ショルテイーより人間的な温かみのある演奏だ。フルトベングラー、トスカニーニワルターの3人は、不幸な戦争の時代を越えてクラシック音楽を戦後に受け継がせた人たちだが、今はフルトベングラーひとり持て囃されてワルターが忘れられている。何しろモーツアルト「レクイエム」のラクリモザを、泣いて歌え! と合唱団員に声をかけた人だ。人間性のあふれるワルターの演奏はもっと聴かれてもいい。


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