大岡昇平「レイテ戦記」を読む

木曜日  晴れ

 気象情報では東京周辺はいよいよ冬到来をしきりに伝えるが、当地は一向に寒くはない。これで「冬」なら楽なものだが、そうはゆかないだろう。

 そろそろ箱根あたり紅葉が見ごろになると思うが2〜3日出かけてみたいものだ。

 大岡昇平「レイテ戦記」読了。 一読 ズシンとこたえるところあり。量質ともに偉大な作品だ。(上下2冊1300ページ)

本書は「戦記」という書名であるが、実はは堂々たる文学作品である。堂々たるというのは、84000人の兵力を投入して79000人を戦没者として失い、(その多くが餓死)連合艦隊のすべてを藻屑にし、ついにあの特攻自爆作戦だけを頼りにせざるを得なくなったレイテの悲惨な戦いを 敵軍であったアメリカ側の資料も含めてひろく渉猟して史実の正確性をはかって記述しているだけでなく、著者みずからが、比島の戦に従軍して、ミンドロ島で米軍の捕虜となり、レイテの捕虜収容所で暮らした体験を下敷きにしているところが説得力となって、読み手を引きずり込む。見棄てられ、潰乱状態に陥った日本軍の最後を知性的に描き切ったところが、「堂々たる」と評価したくなるところである。自分はあまり「戦記」と名のつくものは手にとらないのだが、それは「戦記」なるものが、書き手の個人的な体験談か、客観性を重んじるあまりの無味乾燥な記述が多いと考えているからだが、この「レイテ戦記」は違う。武器も食料もないのになぜこんな戦いにのめりこんだのか、どうして兵士はあのような死に方をしなければならなかったのか、それを訴える文章がとてもいい。「文学的」なのだ。
 巨大な作品なので全部を読むのは大変だが、巻末50ページの「エピローグ」だけでも読む価値がある。レイテ山中の大量餓死と、派生して起った人肉喰いのことまで踏み込んで書き切っているところに、自分は衝撃的な印象を与えらた。