皆川博子「死の泉」 を読む

金曜日  晴れ

 朝から快晴。遠くに黒い雲があり、降雨を期待したが、待っていても一滴も降らず、今日も暑い1日だった。9月も半ばとは思えぬ。爽やかな秋を知らぬままに冬がくるような気がする。

 皆川博子の小説を読んでいる。本当は大岡昇平の「レイテ戦記」の後半を読むべく机の上に置いてあるのだが、暑さ、と厚さ,に負けて読みやすそうな方に手を出したという次第。

皆川博子は1930年生まれの媼文士、作品「恋紅」で1986年に直木賞を受賞している。幻想的な推理小説を書いて人気があったが、最近はどうなのか?
 手にとって読んだのは、1987年に発表して吉川英治文学賞を受賞した「死の泉」(早川書房刊)

主題は、ナチスドイツの人種純潔政策で子供たちが医学的に人種改良されていた過程を描いたもので、戦時中のヒットラー時代のドイツでは、こんな非人道的なことが行われていたのかという、驚きが読後に残った。スリラー小説ではあるが、第2次大戦期のドイツの負の断面を、幻想的な雰囲気を交えながら描いた硬質の作品である。ドイツ全土の都市が連合軍の空襲でガレキの山と化していたことが、あらためて認識させられた。
 主な舞台が、ヒットラーの山荘があったベルヒテスガーデンであることもなつかしかった。ここは、何年か前、街まで行って昼食をしながらも、山荘には行けなかった悔いが残っているのだ。