久保栄「火山灰地」を読む

水曜日    快晴

  


もう大分前になるが、この「日常」で久保栄の「火山灰地」を読みたいが、もう忘れられた作品で手に入らない、と書いた覚えがある。ふと気がついたのは、昔出された筑摩書房の「現代文学全集」に収められているのではないかということ。自分は持っていないので、もしやと思い、通りがかりの街の古本屋ならぬガラクタ屋をのぞいたら、ありました!金50円也。
 この「文学全集」は、恩地孝四郎装丁の立派な造本で、1955年ころ全100巻位の全集で出されたもの、恐らくどこの家庭でも2〜3冊は残っているのではないか?業者では厄介もの扱いで、50円〜100円均一くらいで店先に積んである代物だ。(宝の山です) 戦後10年で出た良心的な出版だったが、A5版3段組で字が小さく、今ではとても読みにくい。上の写真の真ん中が手に入れた「第50巻、真船豊、三好十郎、久保栄木下順二集」です。収められている久保栄の作品は「火山灰地」の一本だけ。

久保栄の名前を知ったのは、まだ学生のころで、その頃雑誌「新潮」に発表された小説「のぼり窯」戯曲「日本の気象」が大変話題になり、自分も誰かに借りて読んだ記憶がある。中身は忘れた。
 「火山灰地」が久保栄の代表作であることはそのころ教えられた。また俳優座が、その第1部を久保栄の演出で有楽座で上演して話題になったことも覚えているが、自分はその頃の時代のムードに引き摺られていたのかも知れない。

 「火山灰地」は昭和12年、13年に発表されたものだが、読んだのは今回が初めて。名前だけ知って実物に接するまで何と60年、火山灰に覆われた北海道 十勝地方の農村を舞台に、農事試験場の場長一家、小作農、地主、老農学者、炭焼き業者、技師、大学生、アグネススメドレーを読む女性、その他多くの人々が絡み合って繰り広げる壮大なドラマは、全7幕という大長編ながら、巻を措く間もなく読むことが出来た。小作農と地主の対立、学者と技術者の意見の絡み合い、女性作業者の大らかな日常などが繫がりあって描かれ、よく組み立てられた作品だが、もう演劇としては上演されないだろう。今ではテーマが一般受けしないと思う。
 読んだ!という自分だけの感慨を残しておくことにする。