蘆花日記全7巻を読む

水曜日  晴れ。

全国的に高気圧に覆われ、終日 雲なく青々とした快晴。風もなく暑し。まさか梅雨明けでは?

 この暑苦しい中、長い間ツン讀してあった「蘆花日記 全7巻 1987年 筑摩書房刊」という およそ涼しげのない分厚い書物につきあってしまった。



紀田順一郎氏が この「蘆花日記」は全部読むには余程の忍耐力が必要 と何かに書いていたものだ。こちらも読み終わるのに半年を費やしてしまった。
 蘆花には自分の身辺を書いた作品が多いが、日記も大正3年から死の8ケ月前、昭和2年1月7日までの13年間 1日も休むことなく延々と書き続けられた。公刊されたのは大正7年12月までの4年間のものだが、それでもA5版 500ページ以上のものが7冊という膨大なものだ。日記の原稿は全部保管してあるそうだが、おそらく公刊されることはないし、また公刊されても、読む人もいないだろう。
 蘆花特有の読みにくい字を整理して、公刊できるまでにされた関係者の労力には敬服せざるを得ない。 日記は起伏のない身辺の日常を毎日長々とメリハリなく記載しており、社会的な問題には殆んど触れることがない。蘆花の喜怒哀楽は自分の接する人、夫人、お手伝いの女性、兄 蘇峰、父母、などに関わることに限られているようで、これが露悪的に毎日書かれているのだから、全巻読むには「忍耐」が必要になるのだ。
 瀬戸内晴美(寂聴にあらず)が第1巻のオビに「実に赤裸々で蘆花のどの作品より面白い。愛子夫人の日記も読みたい」と寄稿しているが、それは蘆花が公刊を憚る夫人との寝室のこと、お手伝いさんとのアレコレまで欠かさず書いているからだろう。これ等の事項も第3巻を過ぎるとあまり書かれなくなるから、晴美氏も全巻は読んでいないと思う。ただ夫人の日記も読みたいというのは同感!
 この「日記」には、蘆花のどうにもならない偏執性的な性格や、徳富一族の、公開を憚れるようなゴタゴタが漏らさず書かれている。よく生存している一族の関係者が、出版を了承したと思われるような壮大な奇書である。