演劇太平記を読む

火曜日 雨
終日 冷たい雨降り続く。寒く、ストーブも点けっ放し。寒いとエコにならず。この1週間、天候のせいもあって外出出来ず、おかげで、長い間 ツン讀になっていた 北条秀司「演劇太平記」5巻読了。全部で6巻の筈だが、5冊だけヒモで束ねて安売りしていたのを10年ほど前に買ってきてそのままになっていたもの。毎日新聞社刊。北条秀司は新派、新国劇、新歌舞伎などの劇作家、本書は、自分の作品を演じた役者、劇団、劇場との間におこった、いろいろな事件、ゴシップ、裏話など、あれこれをほぼ時を追って気ままに書き述べたもの。ちょうど週刊誌を読むように気楽に読めるし、筆力があるので並な言い方だが面白い。1981年から毎日新聞の日曜版に約5年間連載されたもの、筆者が80歳を越えてからの執筆だから大したものだ。当方は[毎日新聞]を読んでいないから、こういう本があることは知らなかった。新刊の定価は1冊1800円、5冊束ねて2000円也。安いか高いかは読んでのお楽しみということだったが、やっとケリがついた。安い!


この「太平記」を読んで知ったことは、脚本は芝居が終わると、文学作品のように書いたものが残ることは少なく、知られざる不遇な作者も多いこと、脚本を書き始める時は、もう上演の日程も決まり、キップも売り出されているので、書き上げるまでの圧迫感、束縛感が大変なこと、折角精魂込めて書き上げても肝心の役者が稽古不十分で、作品の出来ばえが芝居にあらわれないことがあること、等々。
 それにしても、この人の交友関係は大変なもので、作品に登場する人物は優に300人を越えるだろう。この人名だけ抜き出して書いても有益な資料になるだろう。人名録、或いは人名索引があればいいにだが、持っている5冊にはそれがない。作品に登場する人達が文献上の人物ではなく、北条秀司が実際に声をかけたり、かけられたりして接触した人というのが凄い。だから読んでいて現実味があり、また迫力もある。花柳章太郎水谷八重子、霧立のぼる、原節子、11代目団十郎、松本白鳳、井上正夫、島田正吾辰巳柳太郎菊田一夫川口松太郎、そして話題の森繁久弥など。こちらの知らない人も一杯。書かれた人達の人物論だけでも話題豊富だ。

北条秀司は明治35年大阪の生まれ。関西大学卒業後、箱根登山鉄道に勤務しながら岡本綺堂の門下となり、劇作を続けた。昭和16年、綺堂没後、鉄道を辞め劇作に専念した。平成8年に94歳で没。長生きだった。
「演劇太平記」は昭和61年〜66年にかけて毎日新聞社より刊。B6版、全6巻。写真に見るように、くすんだ草色の表紙にビニールカバーをかけただけの、中身にそぐわぬ味もそっけもない装丁だ。
 余計なことだが、概して毎日新聞社で出す本には、オシャレの感覚がない。「演劇太平記」のような著作は「青蛙房」から出すのがふさわしいと思うがどうか?これも余計なことかな。